2026年06月04日

シンバイオティクス�C―腸内細菌とメンタル

腸は第二の脳として独自の判断をしている

Hydrocoryne-miurensis_Hatozu_LV-1024x768.jpg ヒドラは最も単純な多細胞生物で、主な器官は口と腸と触覚だけである。口は同時に肛門の役割を果たしているため、いってみれば、身体中が腸のような生物である。食べたものを検知するセンサー細胞は触覚にあり、腸の内容物を化学的に認識してホルモンを放出して近くの細胞や神経に伝達している[p184]。ヒドラには脳のような司令塔はなく、身体中の神経細胞が状況を検知して対応している[p185]。

 ヒドラのこの仕組みは人間の腸と大きくは変わらない。センサー細胞はヒトの舌の細胞、味蕾に残されている[p185]。ヒドラやクラゲ、イソギンチャクのように腸はあっても脳がない生物が存在することからもわかるように腸管の内側には神経細胞が網のように広がる腸管神経系があり、腸は脳からの指令がなくても自律的に機能する仕組みを持つ[p121]。いますぐにでも排出しなければならない危険な異物が入ってきた緊急事態に、いちいち脳におうかがいを立てていたら間に合わない[p185]。腸が第二の脳と呼ばれるのはそのためである[p121]。

腸内細菌がいないとストレスに弱い

 Nobuyuki-SudoS.jpgストレスが原因となって過敏性腸症候群(IBS)は生じるが[p122]、この症状を持つ人は鬱病にもなりやすい[p123]。腸と脳は相互に影響しあっていることから、これを「脳腸相関」と呼ぶ[p122]。心身医学を研究する九州大学の須藤信行教授は、無菌マウスは通常のマウスに比較してストレスホルモンの血中濃度が高いうえ、記憶や学習と関わる海馬で脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子の発現が低下していることを2004年の研究で明らかにした。これは腸内細菌を持たないマウスはストレスに弱く、不安レベルも高くて落ち着きがないことを意味する。そこで、教授は無菌マウスにビフィズス菌を与えてみたところ、ストレス反応が普通のマウスと同じように正常化した[p124]。

 理化学研究所の辨野義己博士が、無菌マウスと通常マウスの脳内代謝物質の違いをメタボロミクスで2017年に比較してみたところ、腸内細菌が脳内代謝物の産生促進や減退に関与していることがわかった[p127]。すなわち、腸内細菌には、腸を整え、感染を予防するだけでなく、免疫や自律神経系を調整するといった作用もある[p48]。

ストレスによる体調不良も腸内細菌で改善できる

 Kensei-Nishida.jpg徳島大学大学院医歯薬学研究部の西田憲生准教授とヤクルト本社中央研究所との2016年の共同研究によって、L.カゼイ・シロタ株を8週間引用したグループはプラセボグループに対して、医学部での進級試験へのストレスの影響を受けにくいことがわかった[p132]。ストレスに曝されるとコルチゾールが分泌されるが、唾液中の濃度も抑制されていた[p133]。

 また、ビフィズス菌や乳酸菌を30日投与したグループとプラセボを投与したグループを比較した別の研究でも鬱や不安等のストレス症状が減り、尿中で検出されるストレスホルモンも減っていた。生物進化的にも最初に誕生した臓器が消化器官であることから、腸が脳に影響を及ぼすのも自然に思える[p134]。

【画像】
ヒドラの画像はこのサイトより
須藤信之教授の画像はこのサイトより
西田憲生准教授の画像はこのサイトより

【引用文献】
大朏博善『乳酸菌、宇宙へ行く』(2017)文芸春秋
posted by フィデル at 07:00| Comment(0) | 食 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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